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2007'05.23.Wed
例によって展覧会カタログ。かなり豪華な作りです。¥2,000也

モーリス・ユトリロ展 -モンマルトルの詩情-
於・三鷹市美術ギャラリー (会期 4/28~7/8)
観覧時間の目安:1時間(空いてれば)


「彼にとって、絵を描くとは何を意味していたのだろう?」

彼の作品、略歴、そしてエピソード。
展示物の前を行き交いながら出口まで辿り着いた時
私の頭の中は上記の疑問でいっぱいになりました。

いちおうユトリロの名前と作風ぐらいまでは知っていたのですが、
彼がとても幸せとは思えない人生を送っていたとは思いませんでした。
それほどまでに、彼の絵からは暗い要素をあまり感じなかったのです。
少なくとも、今までは。

そんな彼の暗い生い立ち、波乱の人生について詳しく語るほど
私は知識があるわけではないので、ここでは控えさせていただきますが、
驚いたことをいくつかあげると、

・ユトリロは私生児として生まれ、父親がわかっていない。
・母が結婚をすると彼は祖母と田舎に追いやられ、12歳でアルコール依存症になる。
・絵を描き始めたのは20歳頃。精神病院に収容された際、治療のために勧められた。
・その後も奇行が続き入退院を繰り返すと、
 親族によってモンマルトルへの出入りが禁止される。
・また彼の作品が世間に注目を浴びるようになると、
 親族はユトリロの絵の財産的価値を目当てに絵を描かるようになる。
・上のような状況から、彼は渡されるポストカードを元に作品を描いていた。
・親族は贅の限りを尽くしていたが、彼自身は赤ワイン代さえあれば良かった。

といったようなことです。

彼の絵の傑作が多く出たとして有名な時代は「白の時代」と呼ばれるそうで、
それは絵を描き始めてごく数年後の1914年頃、30歳ぐらいまでだと言います。
精神病治療のために取った絵筆。彼は絵を描くのが好きだったのでしょうか?
しかし、鉄格子のはめられた部屋に、ほぼ幽閉状態で絵を描かされていた時も
文句は言わなかったといいます。(奇行は続いたそうですが・・・)

私も「白の時代」の絵柄のほうが好きです。
後期の「色彩の時代」に入ると、確かに鮮やかな木々や空の色は惹きつけられるし
この中にも好きな作品はあるのですが、
やっぱり「描かされていた絵」と感じなくもないというか・・・。
これは、前述のユトリロの略歴を知ってしまったからなんでしょうか。

でも、自分なりに考えてみて、わかったことがあります。
「白の時代」と「色彩の時代」では、決定的な違いが色使い以外にもあるのです。
それが人物の描写。

「白の時代」は純粋に街並みだけを描いていて、
人物がそこにいたとしても、目を凝らさないと見えないほど小さいのです。
しかし「色彩の時代」には、後ろ向きの人がたくさん街を歩いています。
その人間のシルエットが実に奇妙。とくに女性が、不自然に腰が張っているのです。

これはパネルでも紹介されていたのですが、彼はその不幸な生い立ちから
母親とジャンヌ・ダルクのみを絶対的な女性として崇拝していて、
その他の女性は忌むべき存在だったようです。
街行く人々の後姿から、そこに彼の人間に対する複雑な思いを感じた気がしました。

しかし、この奇妙な人型のものたちは、
もしかしたら彼が積極的に人間と関わろうとした努力の後なのかもしれない。
絵を描き始めた直後の、くすんだ色使いの中に生える白。
それが彼の純粋さの表れだとしたら、
入院後の色鮮やかな筆遣いは、実際に景色を見ることのできない不自由の中で
それでもモンマルトルの風景に込めた願いだったのかもしれないです。
そして私たちは、まるでその風景画そこへ広がっているかのような印象を受けるのです。

彼は「色彩の時代」にこう言っていたそうです。
青は神であり、緑は希望である、と。


さて、今回特に思ったのは「絵画は実物を見なきゃわからない!」ということ。
どんな絵でも、図録を見るとの本物を目にするのは
与える印象の開きに天文学的距離があると思われますが、特に今回それを感じました。
そのぐらい作品のインパクトが大きかったのです。

理由のひとつとして、まず凹凸。
油絵だから当たり前なんですが、ユトリロの作品はとても厚塗りです。
建物の壁や木々の質感を、何色もの色を混ぜ合わせ塗り重ねて表現しています。
これはなかなか印刷では感じ取れないことです。

そしてもうひとつが色使い。
ユトリロの作品群は「白の時代」と呼ばれる時代も「色彩の時代」と呼ばれる時代も
とても難しい色をしています。
どう難しいかのを説明するのはすごく難しいのですが(難しいが続くな・・・)
色補正の仕事をやったことある人なら雰囲気がわかるかな。
つまり、あからさまに印刷で表現しにくい色なんですよ。

鈍い色の中間色、たとえるなら灰色やベージュといった色は
同じ印刷機にかけても色に少しずつ違いが出るぐらい微妙な色なんです。
「白の時代」の絵には、そんな曖昧なカラーがすごく多い。
そんな中で、ほんの数箇所、鮮やかなオレンジや黄緑が使われてたりして
絵のアクセントとして重要なんですが、印刷する側はやっかいだと思います。
そして「色彩の時代」と言われる色とりどりで細かな描写の画面は、
やっぱり印刷所泣かせだと思います。

この企画展は東京展終了の後、千葉展(千葉県立美術館)、
北海道展(北海道立旭川美術館)、福岡展(福岡県立美術館)と巡回するそうです。
そんなわけで、お近くに会場があって気になった方にはぜひ、
足を運んで実物を見ていただきたいなぁと思います。


三鷹市美術ギャラリー 企画展のページ
http://mitaka.jpn.org/calender/gallery/
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